むかしむかし、あるところに 3 人の兄弟とその父親がいました。
父親は病気になり、な
かなか回復しませんでした。
長男がきて言いました。
「おとうさん、何で日に日に痩せていくの?」
「病気になってしまったんだよ」
しかし病気の理由は話しませんでした。
次男もいましたが、彼にも何も言いませんでした。
「病気だからな」
というだけでした。最後に三男が父親のそばに来て、
「お父さん、なんで日に日に痩せていっているの?」
と聞くと、父親はこう言いました。
「ああ、息子よ、わしが言ったらお前が力になれるとでもいうのか?」
「お父さん、もしかしたら力になれるかもしれないよ」
「そうか、なら言ってやろう。ウユズ王というものがいたんだが、そいつは私の3羽の
ナイチンゲールを盗んでいきよった。それからというもの、わしは病気にかかってしまった。
ナイチンゲールを取り戻すことができれば、良くなるだろう」
三男は兄弟に父親から聞いたことを話しました。
3 人は「父親の苦しみは分かった。治
療法を見つけに行こう」と、馬に乗り、旅に出ました。
しばらく進んでいくと、3 本の分かれ道がありました。
ある道の前に立っている石には
「この道を進む者はまた戻るであろう」という文字が、
2 番前の道には「この道を進む者
は帰ってくるかもしれぬし、戻らぬかもしれぬ」、
3 番目の道には「この道を進む者は戻れ
ないだろう」とありました。
三男は長男に「兄さんは“進むものは戻る”道に進んでください」と言い、次男に
「兄さんは“進むものは戻るかもしれないし、戻らないかもしれない”道に進んでください」
と言いました。そして「僕は“進むものは戻らない”道に行き
ます」と言い、旅をつづけました。
歩みを続けていき、三男はかなり遠い場所までたどり着きました。
小川につきあたり、
杭を打ち、馬を結びつけると、横になって眠りにつきました。
眠りの中で、バサバサという大きな音を聞きました。
起きて見てみると、一匹の巨大な竜が来ています。
少年は起 上がり、竜に鎚矛を投げて殺しました。馬に乗り、旅を再開しました。
進んでいくと、屋敷がありました。屋敷にあがってみると、ある部屋に美しい少女がいます。
少女は少年に言いました。
「あら、あなた、どうやってここに入ったの?もうすぐ、ヘビの王であるシャフメランが
帰ってくるわ。ここは彼の屋敷なの。彼に殺されてしまうわ」
少年は言いました。
「怖がらないで。大丈夫。君の名前は?」
「ギュルペリよ」
「僕といっしょに来てくれる?」
「行きたいけど、竜が私を殺してしまうでしょう」
「そいつなら僕が殺したよ。さて僕は行かなければ。やらなければいけないことが終わったら
帰るときに君を迎えにくるからね」
少女は、
「わかったわ。」と言いました。少年は立ち上がり、馬に乗って旅を再開しました。
遠くへ、遠くへと進んでいきました。すると、また屋敷がありました。
そこは、あの少女の2番目の姉ギュリザルが住む屋敷でした。
少年は彼女とも出会い、「帰りに君を迎えに
来るよ」と言い、旅をつづけました。
進んでいくと、また屋敷がありました。ここは年少の姉ギュルバハルの屋敷でした。
彼
女にも「帰りに君を迎えに来るよ」と言いました。
旅を続けていくと、ある道に巨大な男が座っていて、毛糸玉の糸をほどいては巻き、
ほどいては巻いています。少年は驚いて尋ねます。
「おじさん、なんでほどいたり巻いたりしてるんだい?」
「少年よ。巻いて、遠くを近くにしているんだよ。近くを遠くにしているんだよ、ほどい
てね」
「おじさん、ここらへんにウユズ王がいると聞いたんだけど、どこにいるか知ってる?」
「少年よ。そいつの宮殿はここからはるか向こうだよ。だけど、俺がこの毛糸玉を巻いて、
遠くを近くにしてやろう。このウユズ王だが、40 日の深い眠りについているところだ。
今日そいつも、そいつの国もこの眠りについたばかりだ。今、そこについたら、ライオンも
トラも
憲兵も兵隊もみんな寝ているはずだ。犬は口をあけ、憲兵たちは武器を投げ捨て、
みんな
寝ているよ。怖がる必要などない。40 日間、目を覚ますことはないんだから。
まっすぐ宮殿に行くがいい、大丈夫だ。」
少年はこの巨大な男の言葉を聞くと、立ち止まるとこなく足を進めました。
この巨大な
男のおかげで、すぐにウユズ王の国に着きました。
そこに着いて、馬を結びました。
宮殿
の庭から中に入ると、ライオンもトラも犬も兵たちもみんな横になっていました。
固まっ
たように寝ていますが、目だけは開いています。
少年は彼らの前を過ぎ、まっすぐ宮殿へ
と入りました。そこでも、誰もが深い眠りについています。目だけは開けながら。
少年は
ある部屋に入ると、ウユズ王が寝ていました。
3 羽のナイチンゲールはウユズ王の枕元で
鳴いています。
少年はナイチンゲールを取り戻し、部屋から出ようとしました。
少し出た
ところでこうつぶやきました。
「このウユズ王という奴はどういう男なんだろう?顔をみてみてもいいだろう…」
戻って王座に近づいて、王の顔を覆っている布をとって見てみると、なんと光のような美しい娘でした。
ためしに少年は娘の襟元のボタンをはずしてみますが、起きる気配はあ
りません。
少年は再び彼女の顔に布をかぶせ、ナイチンゲールと共に宮殿を後にしました。
少年はウユズ王の国に向かう時に出会った 3 人の姉妹のもとへと向かいました。
初めに、年少の娘を、そして真ん中の娘を、そして最後に年長の娘という順に屋敷から連れて行き
ました。
3 人の娘たちは馬に乗って少年の旅に加わりました。
そして少年が兄たちと別れ
た分かれ道の分岐点にたどり着きました。
兄たちも戻ってきており、弟を待っているとこ
ろでした。
彼らは弟を待つと決意していたのでした…
三男は年長の娘を一番上の兄に、真ん中の娘を二番目の兄に、そして年少の娘を自分のものとし、旅をつづけました…
進んでいくと、井戸を見つけました。のどの渇きを感じ、長男は言いました。
「僕が下り
て、水を汲んでくるよ」
ロープを括り付け、長男を下におろします。少しおろしたところ
で
「やっぱりだめだ!」
と叫び始めました。長男を引っぱり上げます。今度は、次男が
「僕
が下りるよ」といい、また少し降りたところで「やっぱり上げて!」と叫びました。
次男
を引き上げます。三男が言います。
「僕が“やっぱり引き上げて!”とか何とか言っても気に留めないでください。
最後までずっとロープを降ろし続けてください」
三男が井戸の中に降りようとしたとき、年少の少女が、
「やめてください、二度とこの世界の地上に戻れなくなってしまいます」
と懇願しました。しかし、少年は「行きます」といってききません。
そこで少女は言いま
した。
「あなたが井戸の底についたら、2 頭のヒツジが来るでしょう。
一頭は白く、もう一等は
黒いです。
こうやってあなたの周りを飛び跳ねるでしょう。
なんとかして白ヒツジをつか
まえて、その背中に乗ってください。
白ヒツジに乗れば白い世界に行き、黒ヒツジに乗れ
ば黒い世界に行ってしまうでしょう」
とにかく少年はのどの渇きに耐え切れず、井戸の底に降りました。
目の前に黒ヒツジと
白ヒツジがやってきて、彼の周りを飛び跳ねます。
白ヒツジの背中に乗ろうとしたとき、
どうしてだか黒ヒツジに乗ってしまいました。
ヒツジは彼を黒い世界につれていきます。
少年が黒い世界に降りているちょうどその頃、少年の兄たちが 3 人の娘たちを祖国に連
れていっていました。
少年は黒い世界を進んでいくと、ある家の前にたどり着きました。少年が、
「おばさん、僕に水をくださいませんか」
と言うと、女性は少年に真っ赤な血を渡します。
「なんで水ではなく血を渡すのですか?」
「ああ、息子よ。巨人が水を見張っているのよ。その巨人に私たちは一日一人の娘を
捧げ
ているの。巨人がその娘を食べるとき、私たちは一滴の水を手に入れることができる。
水
が血なのは、これが理由なの。今日はスルタンの娘を連れて行くから、彼女が食べられる
でしょう。娘たちはみんないなくなってしまったわ」
「その巨人はどこにいるのですか?見せてください」
「何を言ってるの。多くの男たちがその巨人に食べられてしまったのよ。あなたも
食べられてしまうでしょう」
「いいから教えてください」
女性はこの少年が諦めそうにないことを知ると、巨人のいる場所を遠くから指し示しまし
た。
巨人に娘を運んでいる者たちも見えました。
少年は娘よりも先に巨人のもとへと行き、
巨人を殺します。
娘が巨人のもとへとやってきて、少年の勇敢な様をみると、彼が立ち去
る前に、自分の指に巨人の流した血をつけて少年の背中に血で印をつけました。
向こう側から人々がどっと押し寄せてきて、まだ少し血の混じる水を容器にいっぱいにしていきま
した。
少年はというと、女性のもとへと戻り、再び水を求めます。女性はまた真っ赤な血のよ
うな水を少年に持ってきます。少年は言います。
「おばさん、この水は飲めませんよ。透明な水を持ってきてください」
一方、スルタンの娘は宮殿に帰ると、起こった事を話しました。
スルタンは呼び込み人
を呼び、
「あの巨人を殺した者は名乗り出るように。巨人を殺した者に娘をやろう」
と言いました。
すると、「私が殺しました」という者たちが殺到し、なかなか見つけること
ができません。
娘は言いました。
「私は誰が殺したかわかるわ。男たちに服を脱いで宮殿の前を通り過ぎるよう命令してく
ださい。
この国にいるすべての男たちです」
その国の男たち全員が服を脱いで、娘の前を歩いていきます。
娘は、巨人を殺した少年
を背中の印で見分けます。
そして「巨人を殺したのはこの男です」と言いました。スルタ
ンは少年を呼びます。
「娘をおまえにやろう」
「スルタン様、どうか私をこの黒い世界から白い世界に連れ戻してください。それ以外
何もいりません」
「少年よ、この国のどこかにある鷲がいる。そこに行って鷲がいれば、そいつにこの願いを
願うがよい。おまえを白い世界に連れ出せるものはその鷲しかいないだろう」
少年はその鷲がいるという場所に行きます。見ると、大きな木に何かが巻き付いています。
近づいてみてみると、巻き付いているのは大蛇だとわかりました。
少年は大蛇を鎚矛
で突いて殺しました。そして木陰に横になりました。
鷲のひなたちもの木の上にいました。
しばらくすると鷲がやってきて、少年を見つけると、少年に襲いかかろうとしました。
ひなたちが鳴きはじめます。
「やめてお母さん。そこの大蛇を見てよ。大蛇が僕たちを食べようと襲ってきたとき、その男が
救ってくれたんだ」
これを聞いた鷲は翼を少年の上に広げ、少年が目を覚ますまでずっと影を作ってやりま
した。
目を覚ました少年は目の前の巨大な鷲を見て怖がりました。鷲はこう言います。
「恐れることはない。おまえは私の子供たちを救ってくれた。何か望みはあるか」
「僕をこの黒い世界から白い世界に連れ出してください。他に望みはありません」
「息子よ、それは難しいことだ。私はすっかり年老いてしまった。しかし、お前に借りがあるから
この望みをかなえてやろう。白い世界にお前を出してやる。今から私に 40 の水
牛の肉と、
40 の水牛のなめし皮袋にいっぱいの水を持ってこい」
少年はこれらを持ってきて、鷲の両翼の上にこれらを置きます。
真ん中に少年を乗せ、
鷲は言います。
「私が“ラク”という度に肉を、“ルク”という度に水を渡すのだ」
彼らは白い世界に上りはじめます。
鷲が“ラク”という度に肉を、“ルク”という度に水
を与えながら、どんどんどんどん上っていきます。さあもう少しで白い世界に到着すると
いう頃、鷲がラクといいました。
見るともう肉は残っていません…
少年は即座に自分の脚
の一部を大きく切り取って鷲の口に入れます。
その直後に鷲は穴から白い世界の地表へと
少年を戻しました。少年に言います。
「さあ、背中から降りなさい。ここからは歩いていくのだ」
少年は降りますが、その場で止まり、歩こうとしません。鷲に向かって
「あなたはもう行ってください。僕はしばらくしてから行きます」
といいました。鷲がさらに、
「歩きなさい」
というと、少年は足を引きずりながら少し歩きました。
そのとき、鷲は舌の下から少年の
脚の肉を取出し、脚を切り取った部分にくっつけました。
少年がもとのようにしっかり歩
けるようになると、鷲は、
「さあ少年よ、達者でな」
と言い、飛び去って行きました。
少年はこうして黒い世界から救われたのです。あなたも、そして私も。
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24 Aralık 2016 Cumartesi
老鳥(İhtiyar kuş)
昔むかしあるところに、ある男の 3 人息子がいました。
男はある日、病気で床に伏して しまいました。
息子たちをそばに呼び、こう言いました。
「息子たちよ、見ての通り、私は病気だ。どうなるか明らかではない。この世界には何 が起きても不思議ではないのだ。おそらく私はそんなに長くないだろう。おまえたちに遺言がある。死ぬ前に言っておく。絶対にキョセ※1と話すのではないぞ、一緒に何かに取り 組んではならない。私からの遺言だ…」
子供たちは父親の手にキスをし、彼の回復を祈った後、部屋から出ました。
しかし、男 の容態は日に日に少しずつ悪化し、良くなる代わりに悪くなっていきました。
そしてつい にある日、再び目を開けることはありませんでした。
父親の死を悲しむ息子たちは、彼の遺言を守ることにしました。
ある日、食料を手に入れようと一緒に狩りに出掛けました。
夕方まで森から森へと駆け回ったものの、まったく 獲物を見つけられませんでした。
あたりも暗くなったため、森のある一角に身を寄せ、横 になりました。
2 人の兄はすぐに眠りにつきました。
末息子は寝つけなかったため、起き 上がって座りました。
暗闇の中、あたりを見渡し始めました。
立ち上がり、もしかしたら 食料が見つかるかもしれないとある方向へまっすぐ進み始めました。
そして進んだところ で彼が見たものはなんだったでしょう?
なんとそこには大きな炉の上で煮えたぎる大きな 鍋があったのです。
石を上に積み重ね、鍋の中をのぞいて、驚愕しました。
中で煮えてい たのはなんと人の肉だったのです。
彼が石を下りているとき、左右から 40 体の巨人が現れました。
その恐怖から、舌を飲み込んでしまうところでした。
逃げるチャンスがないと分かると、動きを止めました。
巨 人たちは歯をのぞかせながら彼のそばにやってきて言いました。
「おい、人間。ここで一体何をしている?!」
彼は言いました。
「なんにも。探している物なんてないよ!散歩しているんだ」
巨人の長が笑いました。
「ここは散歩するような場所じゃない。調理場だ。今からおまえもこの鍋に放り込んでや ろう。
鍋に放り込まれたくなかったら、中の人間たちとこの鍋を下に降ろして、もう一回 炉に置くんだ。
それができなかったらお前をぐつぐつ煮てやるぞ。わかったか?」
彼は考え始めました。どうしよう?
40 体の巨人が持ち上げられるこの巨大な鍋を僕がどう すれば持ち上げられるものか。
彼がそう考えていると、巨人の長が言いました。
「俺たちの寝る時間が来た。俺たちはいまからそこで寝る。俺たちが寝ている間に一つも 音をたてずにこの鍋を降ろして、もう一回炉に戻すんだぞ!」
巨人たちはある一角で横になり、いびきをかきはじめました。
いかずちに似たいびきは 大地をぐらぐらと揺らしました。
彼らがいびきをかくたびに大地は揺れ、大地が揺れるたびに、鍋は炉の上でずれていきました。
翌朝、目を覚ました巨人たちは彼をすぐに捕まえて
「鍋を地面に降ろして、もどしたんだろうな?」
と聞きました。彼は答えました。
「もちろんです。信じられないなら見てください。再び戻すときに、気を付けなかったので
鍋の場所がすこしずれてしまいました」
巨人たちはいっせいに鍋のそばに集まって調べ始めました。
鍋のそこの場所が変わっているのを見て、この少年がやったと思い、彼に何もしませんでした。
しかし、今度は少年に他の条件を出しました。彼に屋敷を見せながら、
「俺たちは何年もの間、ここで暮らしている。しかし、この屋敷の扉をどうしても見つけることができなかったのだ。もし見つけることができれば、お前に危害は加えない。見つ けられなかったらお前をひと飲みしてやるからな!」
と言いました。少年は屋敷のそばに行き、あたりを歩きました。
扉を見つけることができ ませんでした。巨人たちに言いました。
「僕にくぎと金槌を一袋分持ってきてください!」
巨人の一人が走ってくぎと金槌を持ってきました。
少年はくぎを打ちながらそれを階段のように使って屋敷の屋根まで上がり、屋敷の煙突から
屋敷の中に降りました。そして中を 調べ始めました。大きな部屋に 5 つの寝台があり、
そのうちの一つに年老いた男、もう一 つに年老いた女、そして残りに 3 人の娘がそれぞれ
寝ていました。
5 台の足元、枕元にそ れぞれ蝋燭が燃えていました。
寝台の横にある盆の上にはそれぞれ食べ物が置いてありま した。
少年は気に入った食べ物を口にしました。そしてすべての蝋燭を消しました。
老人の横 の壁に掛けてある剣を手に取り、音を立てないように部屋から出ました。
入ったときと同 じように煙突から外に出て、巨人たちの近くに行きました。
そして彼らに、 「屋敷の扉を見つけました。さあ、僕についてきてください」 と言いました。
巨人たちは大きな梯子を持ってきて屋敷に立てかけました。
少年は煙突か ら中に入り、下で剣を手に待ち始めました。上に向かって叫びました。
「さぁ!一人ずつ下におりてきてください!」
この大きな屋敷の煙突はとても大きかったのですが、巨人たちはやっと入ることができま した。
そのため煙突を頭から下りなければなりませんでした。
少年は下で待ち構え、煙突 から下りてくる巨人の頭を剣の一振りで切り落としていきました。
こうして 40 体の巨人 の頭を切り落としました。
そこから出て、鍋の下から燃える薪を手に取り、兄たちのもと へと戻りました。
見ると、彼らはまだ眠っていました。彼も横になり、眠りました。
さて、話を屋敷に戻しましょう。 朝になり、屋敷の中にいた 5 人は目を覚ましました。
男はすべてが変わっていることに 気づきました。
蝋燭は消え、一番おいしい食べ物は食べられていました。
そして煙突の下 に横たわる 40 体の巨人の死体を見て、すっかり驚いてしまいました。
“一体だれがやった のだろう”と考え始めました。
屋敷中を探してみたものの、誰も見つけることはできませ んでした。
そしてこう言いました。
「屋敷の横にハマムを作らせよう。来た人は誰でも無料で入浴することができる。しかし、 客には代金の代わりに自らの体験話を語ってもらう。もしかしたら、巨人を倒した者を見 つけられるかもしれない」
男は翌日、多くの職人を連れ、昼夜を問わず働かせ、一週間のうちに立派なハマムを
完 成させました。話をきいて客が来始めました。
誰もが無料で入浴するかわりに、自分の体 験した話を語っていくのでした。
しばらくの間、この森で狩りをし、夜は木の上で明かしていた兄弟たちも屋敷の横にハマムが
建てられたこと、そして誰もが無料で入浴できるということを聞き、やってきまし た。
服を脱いで中に入り、よく体をあらいました。
出る前にハマムの所有者に体験したこ とを話しはじめました。
長男、そして次男が語り、最後に末息子の番がきました。
彼は巨人の鍋の話、彼らをどうだましたか、そしてその後屋敷に入り何をしたか、
40 体の巨人の 頭をどう切り落としたかを一つ一つ説明していきました。
探していた者に出会えた男は、
「そらきた、わしはおまえを探していたのだよ。おまえはどれだけ勇敢な男なのだろう。
正直にいえば、40 体の巨人の頭をどう切ったかのなんてわしには想像すらできない。
おまえは我々を災難から救ってくれた。そこで娘のうち一人をおまえにやることにする。
他の娘たちもお前の兄たちにやろう」
3 人兄弟は盛大な結婚式のあと、彼の息子となりました。
しばらくして、兄弟は妻たちと共に旅に出ました。
山を越え、谷を越え、旅をつづけました。
しばらくして後ろを振り返るとまだそんなに 進んでいません。
どうしようもなく、再び歩きはじめました。途中でキョセにあいました。
キョセは彼らにこう言いました。
「おまえたちよ、一体どこにいくんだ?さあ、来なさい。そこらで一緒に狩りをしよう。
ここらにはウズラがたくさんいるんだよ」
長男と次男は三男に、
「俺たちは行かないよ。父上の遺言だ。行きたいならおまえは言っていいぞ」
と言いました。三男とその妻は彼らと別れ、キョセと友達になりました。
しばらくの間、 森で狩りをしました。キョセは彼らにこういいました。
「息子よ、おまえの妻は疲れてしまったようだ。私の家はすぐそこだ、山のふもとだよ。
私はこの子を家においてまた来るからね。私の子供たちと友達になれるし、休めるはずだ。
そのあと私たちは戻ればいい。私が戻ってくるまでお前はここで狩りを続けるんだ。
夕飯 の獲物をつかまえるんだよ…」
彼が狩りをし始め、キョセは彼の妻を連れて行きました。
それから数時間が経ってもそこ に来る者はいませんでした。青年は退屈しました。
それに耐えきれず、山の裏に向かって 歩きはじめました。
途中、年老いた鳥に出会いました。鳥に不満を打ち明けました。鳥は 彼に言いました。
「息子よ、わしに何ができる。わしは年老いてしまった。でなければお前の妻をすぐに見 つけて、連れて来れただろうに。おまえが会ったキョセはとても悪いやつだ。決していく ではない。
殺されてしまうだろう」
青年は、
「このキョセを見つけるよ!死んだってかまわない」
といい、再び歩きはじめました。山の裏にたどり着き、キョセの家を見つけました。
キョ セは 7 日間の眠りについたところでした。
青年はすぐに妻を連れ、見つけた馬に一緒に乗 って出発しました。
7 日後に眠りから覚めたキョセは彼女がいなくなっていることに気づきました。
すぐに 起き上がり、馬に乗りました。馬は鳥のように飛んで青年とその妻に追いつきました。
キ ョセは剣を振って青年をバラバラにし、妻を連れて行きました。
妻はこの状況にひどく悲 しみました。悲しみを抑えてキョセに言いました。
「どうか、この骨を集めて馬の下げている袋に入れてつるしてもいいですか?この馬が故 郷までたどり着いたときに、この骨をお墓に埋めることでしょう」
キョセは青年の骨を拾い集めて馬の下げている袋にいれました。
そして彼女と共に馬にの って元の道を行きました。
青年の馬は走りに走って年老いた鳥のもとへとたどり着きまし た。
鳥は袋の中の骨を取り出してそれぞれをくっつけました。
鳥がそれらを舐めると、青 年は元通りになりました。息を吹き返した青年は言いました。
「なんと!キョセは僕を殺したんだな?あいつをまた見つけ出してやる!」
年老いた鳥は、 「行くではない、息子よ」 と言いましたが、彼を止めることはできませんでした。
青年は起き上がるとキョセの家に行きました。
見ると、キョセは 2 週間の眠りについて いました。
キョセが眠りから覚めるまでに故郷にたどり着けると考えて、妻と一緒に馬に 乗り、逃げました。
一日、二日、三日、五日、そして 13 日走りつづけました。
そして 14 日目にキョセは眠りから覚めました。起き上がり、家の中を歩き回りました。
女が家にい ないと分かると、 「こいつは自ら逃げたに違いない」 と言い、飛ぶ馬に乗りました。
馬は風のように走り始めました。しばらくすると、彼らに 追いつきました。
見ると、青年はぴんぴんしています。女をさらったのは青年だと気づき ました。
そして、 「どういうことだ。まさか生き返ったのか?」 とひとりごとを言って、彼らのそばまで追いつきました。そして前よりも剣を強く振って、 青年をばらばらにしてしまいました。
女を家に連れ去りました。
青年の馬は、彼が血の海 の中にばらばらになっているのを見て、とても悲しみました。
馬の目から涙が流れ始めま した。
背中の袋を地面に落として、口で青年の骨や肉片を集めて袋に詰めました。
そして 袋を歯ではさんで持ち上げ、年老いた鳥のもとへと戻りました。
年老いた鳥はこの状況をみて、
「言うことを聞かない者はこうなるのじゃ!」
と言いましたが、耐えられずに青年の骨や肉片をそれぞれくっつけて舐めました。
青年を 生き返らせました。
青年は息を吹き返すや否や、
「あいつめ!また僕を殺したのか?今度は僕がお前をやっつけてやるぞ!」
と言いました。年老いた鳥は、
「息子よ、もうお前は 2 回も殺されたのだぞ。3 回目は助かるまい」
と言いましたが、青年は鳥のことばを聞かず、馬にのってキョセの家に行きました。
キョ セは 24 日間の眠りについていました。女は言いました。
「またあなたの馬に乗れば、キョセは私たちに追いついてしまうでしょう。
今度はあいつ の飛ぶ馬に乗りましょう!」
すぐにキョセの馬に乗りました。星のように飛んで逃げました。
24 日間の眠りについてい たキョセは、青年が生き返って再び妻を連れて逃げたということに
気づきました。小屋に 行き、馬に乗ろうとしました。しかし馬が見当たりません。
自分の馬で逃げたのだと気づ きました。
そこで、同じように飛ぶように走る仔馬に乗り、彼らのあとを追いました。
彼 らに追いつき始めました。
青年が後ろを振り返ると、キョセが自分たちに追いつこうというとこでした。
その時、馬が後ろからやって来ている仔馬に話しかけました。
「おまえの背中にのっているキョセは悪いやつだ。そいつのせいで私はいつも腹ペコだ。 そいつは手を貸すに値しない。背中から落としてしまいなさい!」
仔馬は母親の詞に従いました。崖の淵を通るとき、キョセを自分の背中から振り落としま した。
崖を転がり落ちたキョセは、バラバラになって、他人の妻をさらい、青年を切り殺 し、自分を乗せてくれている馬を空腹にした罰を受けたのです。
キョセが転がり落ちた後、仔馬は母馬に追いつきました。
青年は仔馬に乗り、妻を母馬 に乗せたままにしました。そして出発しました。
山を越え、谷を越え、青年の故郷に到着 しました。そして幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
※1 キョセ。Köse.「 ひげのない(男)」(cf.竹内和夫『トルコ語辞典』p.243.)トルコの昔話 によく登場する。
男はある日、病気で床に伏して しまいました。
息子たちをそばに呼び、こう言いました。
「息子たちよ、見ての通り、私は病気だ。どうなるか明らかではない。この世界には何 が起きても不思議ではないのだ。おそらく私はそんなに長くないだろう。おまえたちに遺言がある。死ぬ前に言っておく。絶対にキョセ※1と話すのではないぞ、一緒に何かに取り 組んではならない。私からの遺言だ…」
子供たちは父親の手にキスをし、彼の回復を祈った後、部屋から出ました。
しかし、男 の容態は日に日に少しずつ悪化し、良くなる代わりに悪くなっていきました。
そしてつい にある日、再び目を開けることはありませんでした。
父親の死を悲しむ息子たちは、彼の遺言を守ることにしました。
ある日、食料を手に入れようと一緒に狩りに出掛けました。
夕方まで森から森へと駆け回ったものの、まったく 獲物を見つけられませんでした。
あたりも暗くなったため、森のある一角に身を寄せ、横 になりました。
2 人の兄はすぐに眠りにつきました。
末息子は寝つけなかったため、起き 上がって座りました。
暗闇の中、あたりを見渡し始めました。
立ち上がり、もしかしたら 食料が見つかるかもしれないとある方向へまっすぐ進み始めました。
そして進んだところ で彼が見たものはなんだったでしょう?
なんとそこには大きな炉の上で煮えたぎる大きな 鍋があったのです。
石を上に積み重ね、鍋の中をのぞいて、驚愕しました。
中で煮えてい たのはなんと人の肉だったのです。
彼が石を下りているとき、左右から 40 体の巨人が現れました。
その恐怖から、舌を飲み込んでしまうところでした。
逃げるチャンスがないと分かると、動きを止めました。
巨 人たちは歯をのぞかせながら彼のそばにやってきて言いました。
「おい、人間。ここで一体何をしている?!」
彼は言いました。
「なんにも。探している物なんてないよ!散歩しているんだ」
巨人の長が笑いました。
「ここは散歩するような場所じゃない。調理場だ。今からおまえもこの鍋に放り込んでや ろう。
鍋に放り込まれたくなかったら、中の人間たちとこの鍋を下に降ろして、もう一回 炉に置くんだ。
それができなかったらお前をぐつぐつ煮てやるぞ。わかったか?」
彼は考え始めました。どうしよう?
40 体の巨人が持ち上げられるこの巨大な鍋を僕がどう すれば持ち上げられるものか。
彼がそう考えていると、巨人の長が言いました。
「俺たちの寝る時間が来た。俺たちはいまからそこで寝る。俺たちが寝ている間に一つも 音をたてずにこの鍋を降ろして、もう一回炉に戻すんだぞ!」
巨人たちはある一角で横になり、いびきをかきはじめました。
いかずちに似たいびきは 大地をぐらぐらと揺らしました。
彼らがいびきをかくたびに大地は揺れ、大地が揺れるたびに、鍋は炉の上でずれていきました。
翌朝、目を覚ました巨人たちは彼をすぐに捕まえて
「鍋を地面に降ろして、もどしたんだろうな?」
と聞きました。彼は答えました。
「もちろんです。信じられないなら見てください。再び戻すときに、気を付けなかったので
鍋の場所がすこしずれてしまいました」
巨人たちはいっせいに鍋のそばに集まって調べ始めました。
鍋のそこの場所が変わっているのを見て、この少年がやったと思い、彼に何もしませんでした。
しかし、今度は少年に他の条件を出しました。彼に屋敷を見せながら、
「俺たちは何年もの間、ここで暮らしている。しかし、この屋敷の扉をどうしても見つけることができなかったのだ。もし見つけることができれば、お前に危害は加えない。見つ けられなかったらお前をひと飲みしてやるからな!」
と言いました。少年は屋敷のそばに行き、あたりを歩きました。
扉を見つけることができ ませんでした。巨人たちに言いました。
「僕にくぎと金槌を一袋分持ってきてください!」
巨人の一人が走ってくぎと金槌を持ってきました。
少年はくぎを打ちながらそれを階段のように使って屋敷の屋根まで上がり、屋敷の煙突から
屋敷の中に降りました。そして中を 調べ始めました。大きな部屋に 5 つの寝台があり、
そのうちの一つに年老いた男、もう一 つに年老いた女、そして残りに 3 人の娘がそれぞれ
寝ていました。
5 台の足元、枕元にそ れぞれ蝋燭が燃えていました。
寝台の横にある盆の上にはそれぞれ食べ物が置いてありま した。
少年は気に入った食べ物を口にしました。そしてすべての蝋燭を消しました。
老人の横 の壁に掛けてある剣を手に取り、音を立てないように部屋から出ました。
入ったときと同 じように煙突から外に出て、巨人たちの近くに行きました。
そして彼らに、 「屋敷の扉を見つけました。さあ、僕についてきてください」 と言いました。
巨人たちは大きな梯子を持ってきて屋敷に立てかけました。
少年は煙突か ら中に入り、下で剣を手に待ち始めました。上に向かって叫びました。
「さぁ!一人ずつ下におりてきてください!」
この大きな屋敷の煙突はとても大きかったのですが、巨人たちはやっと入ることができま した。
そのため煙突を頭から下りなければなりませんでした。
少年は下で待ち構え、煙突 から下りてくる巨人の頭を剣の一振りで切り落としていきました。
こうして 40 体の巨人 の頭を切り落としました。
そこから出て、鍋の下から燃える薪を手に取り、兄たちのもと へと戻りました。
見ると、彼らはまだ眠っていました。彼も横になり、眠りました。
さて、話を屋敷に戻しましょう。 朝になり、屋敷の中にいた 5 人は目を覚ましました。
男はすべてが変わっていることに 気づきました。
蝋燭は消え、一番おいしい食べ物は食べられていました。
そして煙突の下 に横たわる 40 体の巨人の死体を見て、すっかり驚いてしまいました。
“一体だれがやった のだろう”と考え始めました。
屋敷中を探してみたものの、誰も見つけることはできませ んでした。
そしてこう言いました。
「屋敷の横にハマムを作らせよう。来た人は誰でも無料で入浴することができる。しかし、 客には代金の代わりに自らの体験話を語ってもらう。もしかしたら、巨人を倒した者を見 つけられるかもしれない」
男は翌日、多くの職人を連れ、昼夜を問わず働かせ、一週間のうちに立派なハマムを
完 成させました。話をきいて客が来始めました。
誰もが無料で入浴するかわりに、自分の体 験した話を語っていくのでした。
しばらくの間、この森で狩りをし、夜は木の上で明かしていた兄弟たちも屋敷の横にハマムが
建てられたこと、そして誰もが無料で入浴できるということを聞き、やってきまし た。
服を脱いで中に入り、よく体をあらいました。
出る前にハマムの所有者に体験したこ とを話しはじめました。
長男、そして次男が語り、最後に末息子の番がきました。
彼は巨人の鍋の話、彼らをどうだましたか、そしてその後屋敷に入り何をしたか、
40 体の巨人の 頭をどう切り落としたかを一つ一つ説明していきました。
探していた者に出会えた男は、
「そらきた、わしはおまえを探していたのだよ。おまえはどれだけ勇敢な男なのだろう。
正直にいえば、40 体の巨人の頭をどう切ったかのなんてわしには想像すらできない。
おまえは我々を災難から救ってくれた。そこで娘のうち一人をおまえにやることにする。
他の娘たちもお前の兄たちにやろう」
3 人兄弟は盛大な結婚式のあと、彼の息子となりました。
しばらくして、兄弟は妻たちと共に旅に出ました。
山を越え、谷を越え、旅をつづけました。
しばらくして後ろを振り返るとまだそんなに 進んでいません。
どうしようもなく、再び歩きはじめました。途中でキョセにあいました。
キョセは彼らにこう言いました。
「おまえたちよ、一体どこにいくんだ?さあ、来なさい。そこらで一緒に狩りをしよう。
ここらにはウズラがたくさんいるんだよ」
長男と次男は三男に、
「俺たちは行かないよ。父上の遺言だ。行きたいならおまえは言っていいぞ」
と言いました。三男とその妻は彼らと別れ、キョセと友達になりました。
しばらくの間、 森で狩りをしました。キョセは彼らにこういいました。
「息子よ、おまえの妻は疲れてしまったようだ。私の家はすぐそこだ、山のふもとだよ。
私はこの子を家においてまた来るからね。私の子供たちと友達になれるし、休めるはずだ。
そのあと私たちは戻ればいい。私が戻ってくるまでお前はここで狩りを続けるんだ。
夕飯 の獲物をつかまえるんだよ…」
彼が狩りをし始め、キョセは彼の妻を連れて行きました。
それから数時間が経ってもそこ に来る者はいませんでした。青年は退屈しました。
それに耐えきれず、山の裏に向かって 歩きはじめました。
途中、年老いた鳥に出会いました。鳥に不満を打ち明けました。鳥は 彼に言いました。
「息子よ、わしに何ができる。わしは年老いてしまった。でなければお前の妻をすぐに見 つけて、連れて来れただろうに。おまえが会ったキョセはとても悪いやつだ。決していく ではない。
殺されてしまうだろう」
青年は、
「このキョセを見つけるよ!死んだってかまわない」
といい、再び歩きはじめました。山の裏にたどり着き、キョセの家を見つけました。
キョ セは 7 日間の眠りについたところでした。
青年はすぐに妻を連れ、見つけた馬に一緒に乗 って出発しました。
7 日後に眠りから覚めたキョセは彼女がいなくなっていることに気づきました。
すぐに 起き上がり、馬に乗りました。馬は鳥のように飛んで青年とその妻に追いつきました。
キ ョセは剣を振って青年をバラバラにし、妻を連れて行きました。
妻はこの状況にひどく悲 しみました。悲しみを抑えてキョセに言いました。
「どうか、この骨を集めて馬の下げている袋に入れてつるしてもいいですか?この馬が故 郷までたどり着いたときに、この骨をお墓に埋めることでしょう」
キョセは青年の骨を拾い集めて馬の下げている袋にいれました。
そして彼女と共に馬にの って元の道を行きました。
青年の馬は走りに走って年老いた鳥のもとへとたどり着きまし た。
鳥は袋の中の骨を取り出してそれぞれをくっつけました。
鳥がそれらを舐めると、青 年は元通りになりました。息を吹き返した青年は言いました。
「なんと!キョセは僕を殺したんだな?あいつをまた見つけ出してやる!」
年老いた鳥は、 「行くではない、息子よ」 と言いましたが、彼を止めることはできませんでした。
青年は起き上がるとキョセの家に行きました。
見ると、キョセは 2 週間の眠りについて いました。
キョセが眠りから覚めるまでに故郷にたどり着けると考えて、妻と一緒に馬に 乗り、逃げました。
一日、二日、三日、五日、そして 13 日走りつづけました。
そして 14 日目にキョセは眠りから覚めました。起き上がり、家の中を歩き回りました。
女が家にい ないと分かると、 「こいつは自ら逃げたに違いない」 と言い、飛ぶ馬に乗りました。
馬は風のように走り始めました。しばらくすると、彼らに 追いつきました。
見ると、青年はぴんぴんしています。女をさらったのは青年だと気づき ました。
そして、 「どういうことだ。まさか生き返ったのか?」 とひとりごとを言って、彼らのそばまで追いつきました。そして前よりも剣を強く振って、 青年をばらばらにしてしまいました。
女を家に連れ去りました。
青年の馬は、彼が血の海 の中にばらばらになっているのを見て、とても悲しみました。
馬の目から涙が流れ始めま した。
背中の袋を地面に落として、口で青年の骨や肉片を集めて袋に詰めました。
そして 袋を歯ではさんで持ち上げ、年老いた鳥のもとへと戻りました。
年老いた鳥はこの状況をみて、
「言うことを聞かない者はこうなるのじゃ!」
と言いましたが、耐えられずに青年の骨や肉片をそれぞれくっつけて舐めました。
青年を 生き返らせました。
青年は息を吹き返すや否や、
「あいつめ!また僕を殺したのか?今度は僕がお前をやっつけてやるぞ!」
と言いました。年老いた鳥は、
「息子よ、もうお前は 2 回も殺されたのだぞ。3 回目は助かるまい」
と言いましたが、青年は鳥のことばを聞かず、馬にのってキョセの家に行きました。
キョ セは 24 日間の眠りについていました。女は言いました。
「またあなたの馬に乗れば、キョセは私たちに追いついてしまうでしょう。
今度はあいつ の飛ぶ馬に乗りましょう!」
すぐにキョセの馬に乗りました。星のように飛んで逃げました。
24 日間の眠りについてい たキョセは、青年が生き返って再び妻を連れて逃げたということに
気づきました。小屋に 行き、馬に乗ろうとしました。しかし馬が見当たりません。
自分の馬で逃げたのだと気づ きました。
そこで、同じように飛ぶように走る仔馬に乗り、彼らのあとを追いました。
彼 らに追いつき始めました。
青年が後ろを振り返ると、キョセが自分たちに追いつこうというとこでした。
その時、馬が後ろからやって来ている仔馬に話しかけました。
「おまえの背中にのっているキョセは悪いやつだ。そいつのせいで私はいつも腹ペコだ。 そいつは手を貸すに値しない。背中から落としてしまいなさい!」
仔馬は母親の詞に従いました。崖の淵を通るとき、キョセを自分の背中から振り落としま した。
崖を転がり落ちたキョセは、バラバラになって、他人の妻をさらい、青年を切り殺 し、自分を乗せてくれている馬を空腹にした罰を受けたのです。
キョセが転がり落ちた後、仔馬は母馬に追いつきました。
青年は仔馬に乗り、妻を母馬 に乗せたままにしました。そして出発しました。
山を越え、谷を越え、青年の故郷に到着 しました。そして幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
※1 キョセ。Köse.「 ひげのない(男)」(cf.竹内和夫『トルコ語辞典』p.243.)トルコの昔話 によく登場する。
緑の鳥(Yeşil Kuş )
昔むかしあるところに、あるスルタンの美しい娘がおりました。
ある日、お金持ちの男 の息子がスルタンに娘との結婚を申し出ました。
双方はとてもよく話し合ったあと、スル タンはその青年に娘との結婚を許しました。
それから、40 日、40 晩の結婚式が行われ、2 人は結婚しました。
結婚したその晩、青 年は娘が自分のことを本当に好きかどうか試してみようと思いました。
金のお皿に白ブド ウ、そして銀のお皿には黒ブドウを入れ、妻に聞きました。
「スルタンの娘よ、さあ言うんだ、どちらのブドウが皿に合っている?」
突然の質問に、娘は皿をしばらく見た後、
「銀のお皿に黒のぶどうが、より合ってるように見えます」
と答えました。青年は期待していた答えが得られなかったために怒り狂って、
「つまりお前は私ではなく、私に仕えるアラブ人下僕が好きなんだろう!」
夫のこの言葉に驚いた娘は、どう説明しようか考えていると、さらに悪いことがおきまし た。
青年が手に棒を持って向かってきたのです。
どうにか逃げようと部屋の角に行こうとも青年はすぐに追いつき、彼女を捕まえ、殴り始めました。棒で 40 回彼女を殴って彼女 をまるで病人のようにしてしまいました。
次の日も、次の日も…40 日の間、夫から毎日 40 回殴られていました。
ここで一旦彼ら のことはおいておきましょう…
その近くに、貧しい女とその息子が住んでいました。
彼はある日、稼いだ金で布を買っ てくると母親のところに持っていき、
「お母さん、この布で僕に何着かシャツを作ってくれ。だけど、この布を悩みが一つもな い人間に裁たせてくれ、僕も何の心配もなくそのシャツを着られるようにね」
と言いました。女は考え始めました。さて、近所に悩みのない人はいただろうか。
そして すぐに一人思いついて、喜んで息子に駆け寄り、言いました。
「ついこの間、結婚したスルタンの娘だ。彼女の他にいるわけがない。今すぐ娘のところ にいってくるから、いいね?」
息子は、
「母さん、よく見つけたね。しかもスルタンの娘ときた。金持ちのところに嫁にいった。 うん、確かに彼女以外に悩みの無い人はいなさそうだ」
と言いました。女はさっそく支度 をし、わきに布を抱えて出発しました。
そして間もなく金持ちの男の屋敷に着きました。 使用人たちが扉をあけました。
その時は男が留守にしていたため、女を娘のそばにあげ ました。
夫から振るわれる暴力により体のあちこちにあざができ、骨のきしむ痛さで座る のもやっとな娘は、それがばれないように気を付けながら、
「こちらへどうぞ、おば様。なんの御用でしょう」
と言いました。女は、スルタンの娘が自分を笑顔で迎えてくれたのを見て、一息つきなが ら話し始めました。
「こんな朝早くからあなたにご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。私には息子 が一人おります。稼いだお金で布を買ってきてシャツを作れといったのですが、なんの悩 みもない人間に切らせ、自分も心配することなく着たい、というのです。そこで考えまし た。あなたの他にそんな人はいるはずがありません。そこであなたを尋ねたわけです。そ のお美しい手で息子のためにシャツを裁ってくだされば、とてもうれしいのですが…」
女の言葉を注意深く聞いていた娘は、しばらくじっと考えた後、
「おば様、この世に悩みのない人などいません。私だってそうです。あなたに私の悩みを 打ち明け始めたとしても信じてはくれないでしょう!そこで、今晩あなたをお客様としてもてなしますから、私の部屋のクローゼットに隠れてください。私に大きな悩みがあるこ とが理解していただけると思います!」
女はスルタンの娘に悩みがあることを知ると、何と言ってよいかわからなくなりました。
その晩、娘の悩みが何であるかを知ることに決めました。
娘はこのお客に食事を出した後、彼女を誰にも見られないように、部屋にある一番大き なクローゼットに隠しました。
夜になると、金持ち息子が帰ってきました。
「おまえは俺じゃなくて俺の使用人を好きだったなんてな!」
と手にもった棒で娘を殴り 始めました。40 回殴った後、部屋から出ていきました。
この哀れな娘の叫びとうめきに耐 えられずにクローゼットから出てきた女は、娘の体に薬をぬってやりました。朝まで彼女 の悩みを慰めました。
日が昇りきったころ、そのままの布を家に持ち帰りました。
母親を 心配していた息子が、
「どこにいたんだよ、母さん」
と聞くと、女は屋敷で見たことを一つ一つ説明しました。
息子もスルタンの娘の悩みを思 い、悲しみました。そして母親にこう言いました。
「母さん、僕はぼろシャツで外を歩いたって平気だ。だが、スルタンの娘を悩みから救っ てやらなくてはならない!今から屋敷にいって、旦那が彼女をまた殴りにきたときに“私 はあなたのこともアラブ人の使用人のことも好きじゃないわ。私が好きなのは緑の鳥のデ デです”と言うように言ってくれ。男は緑の鳥のデデを探しに旅に出るだろう。そした ら彼女は解放される。悲しむことはい…」
女は息子のこの言葉を聞くとすぐ出かけ、スルタンの娘のもとへと行きました。
そして 息子から聞いたことを彼女に教え、家に帰りました。
夜になり、男が娘のもとへとやってきました。
娘を殴ろうとしたその時、彼女はこう言 いました。
「私はあなたのこともアラブ人の使用人のことも好きじゃないわ。私が好きなのは緑の鳥 のデデ※1です」
娘のこの言葉に男は立ち止まりました。
緑の鳥のデデはどこのどいつだ?そいつを見つけ なければ。男は旅に出ました。
山を越え、谷を越え、6 か月進み続けました。そしてある草原にたどり着きました。
そこに大きな屋敷を見ました。そばに行き、使用人たちに話しかけました。
馬を小屋に括り付け、上にあがりました。目の前に扉が現れます。
その扉がひとりでに開いたかと思うと、 自分が大きな部屋にいることに気づきました。
そこは部屋というよりも、誰も足を踏み入 れたことがない、森の真ん中にある庭のようでした。木、低木、花々でおおわれていまし た。
そして、どの木の枝にも花にも、低木の下にもとても美しい緑の鳥がとまっていまし た。
部屋の一番奥にある木のうろには、長い白髭の老人が座っていて、鳥たちに何かを教 えていました。 男はあいさつをして歩み寄りました。緑の鳥のデデはあいさつを返しました。
そしてこ う言いました。
「さて、息子よ。何しにここへきたんだい?」
老人がこういうと、すべての鳥たちは鳴くのをやめ、この新しい客を見つめました。彼か らの返事を待ちました。男は説明しました。
「私はあるスルタンの娘と結婚しました。
結婚したその晩、金の皿に白いブドウを、銀の 皿に黒いブドウを置いてどちらが合っているか
と聞きました。すると銀の皿と黒いブドウ のほうがいいと言ったのです。
その時、私はわかりました。
彼女は私ではなく、私につか えるアラブ人の使用人のことが好きなのだと。
なので、それから毎日 40 回殴りはじめま した。40 日ほどそれが続いていました。
そして最後の日に私に“私はあなたのこともアラ ブ人の使用人のことも好きじゃないわ。
私が好きなのは緑の鳥のデデです”と言ったのです。
そういう訳で、私はあなたを探しに来たのです」
緑の鳥のデデは
「他にいうことはあるか?」 と聞くと、
「いいえ、これだけです」 と男は言いました。するとデデは、
「息子よ、おまえは間違っている。おまえの妻には何の罪もない。
おまえが考えを聞いて、 彼女が答えた。彼女の答えにはなんの悪意もない。
それにお前の妻はバラのように美しい 女性だろう。
彼女の価値を理解できてなかったのだな。
よし、おまえに私の身に起きたこ とを話してやろう。
そうしたら世界にどのような女性がいるのかわかるだろう。
…昔、学識もあり、しゃべりもよく、料理も裁縫もできる女と結婚した。
毎晩、私は近所 の誰それさんのところに行ってきます、といって出かけ、朝まで帰ってこない。
次の日も、 次の日もそうだ。これはいけない。
どこに行ったか知るために、ある晩妻のあとをついて 行った。
ついていくと、ある岩の前に出た。
彼女は私に気づいていなかった。突然、“砕け ろ、石よ、砕けろ!”と叫んだ。
すると岩が砕けて、彼女は中に入った。私は外に取り残 されてしまい、どうしようもなかったので
家に帰って寝た。妻は朝方家にもどってきた。
その晩、私は食べ物を入れた袋と剣を持って、また気づかれないように妻の後をつけ、
岩の前にやってきた。そして隅に隠れた。彼女が“砕けろ、岩よ、砕けろ!”と言うと、岩 は砕けた。私は彼女より前に中に入った。彼女も私のあとに中に入った。
見たところ、ほ のかな光がある。彼女に気づかれないように隅に隠れた。
妻は奥に進み、光のそばに近づ いた。すると彼女の隣に大男が現れたではないか。
この大男の片方の唇は地面にもう片方 は空にあった。
私の妻はそいつのそばに近寄りながら
“ああ、決して怒らないでください。 旦那を寝かせられなくて、遅れてしまいました”
と話し始めたのだ。そのあと 2 人は一緒 にいて、やがて疲れると寝始めた。
私は彼らのそばに行き、剣を一振りして、大男の頭を 切り落としてやった。
袋に入れて岩の入り口へ行き、“砕けろ、岩よ、砕けろ!”と言った。
しかし、岩は砕けなかった。
待つしかなかった。
朝方、妻が起き、隣にいた大男に頭がな いことに気づくと、恐怖におびえ、悲しんだ。
そして“あの旦那がいなければ、ここにと どまり、彼のために喪に服したのに”と言った。
頭の中が真っ白になった。しかし、身動 き一つしなかった。
彼女が近くに来たが、私に気づきはしなかった。
“砕けろ、岩よ、砕け ろ!”と彼女が言うと、岩が砕けた。
私は気づかれないように彼女の前に外に出て、先に 寝床にはいった。
彼女もあとから帰ってきて、隣に寝た。
朝、起きると彼女は私に、「私は 40 日、40 晩喪に服さないといけません。
私を待たないでください、それではいってきま す。」と言うと、私は怒った。
すぐに袋を手に取り、ひっくり返した。大男の頭が部屋の真 ん中にポトっと転がり落ちると、
妻は驚愕した。床に倒れた。大男の頭を手に取るや否や、 彼女はロバになってしまった。
片方の目から涙を、もう片方の目から血を流し始めた。ロバを小屋に連れて行って縄でつないだ。今もそこにいる。これらがわしの身に起きたこと だよ」
緑の鳥のデデが話を終えると、男は考え始めた。
デデの身に起きたことを知ると、自分 が間違っていたということがよくわかった。
そして、そこにいる緑の鳥たちが気になって いた男はデデに聞きました。
「デデ、この鳥たちをなぜここに集めたのですか」
緑の鳥のデデは言いました。
「息子よ、この鳥たちのすべては人間なのだよ。しかも、悩みのある人間だ。世界のどこかで酷い目に遭い、悩みや悲しみを抱えた人間がいると知らせが入ると、緑の鳥として彼 らをここに連れてきて、自分の子供とする。そして毎日、美しい言葉でその心の傷を、悲 しみを、取り除いてやっているんだよ。わかったかな?」
男は、言いました。
「わかりました、おじいさん。あなたはいい人なんですね!」
デデは言いました。
「おまえも良い人になるように頑張るんだよ」
男はデデのこの言葉を受けて、妻が自分をなぜここに導いたのかがわかりました。
さよ うなら、といってそこを離れようとしたとき、緑の鳥のデデは彼に一本の花を手渡して、
「この花を受け取りなさい。心に傷を負ったおまえの妻に渡しなさい。頭につけるがよい。 さすれば、悩みから、悲しみから解放されるだろう…」
と言いました。 男は花を受け取り、そこを離れました。
馬に乗り、出発しました。
山を越え、谷を越え、 昼夜を問わず、歩みを進め、家に着きました。
妻のそばへと行き、緑の鳥のデデがくれた 花を妻に渡しました。
頭につけるよう言いました。
娘は喜んで花を手に取り、頭につけました。
しかし、どうしたことでしょう。
花を手に 取るや否や、彼女は姿を消してしまったのです。
あたりを見回した男が見たもの、それは、 緑の鳥でした。
妻は緑の鳥となり、窓の外へ飛んでいくところでした。
彼女を逃がさない ように窓を閉めようと駆け出しました。
しかし、間に合いませんでした。鳥は飛んで行っ てしまいました。
妻に 40 日もの間、不当な暴力を振るってしまったことがいかに罪重きものだったか。
男は、彼女を手放してしまったことでそれをさらに痛感することとなりました。
しかし、 もう一度彼女を連れ戻すために緑の鳥の園に行くことが何の意味もなさないと悟り、
自分 の運命を受け入れました。間違いを認めました。
そして間違いを二度と起こさぬよう、心に刻んだのです。
※1 おじいさん、の意。
ある日、お金持ちの男 の息子がスルタンに娘との結婚を申し出ました。
双方はとてもよく話し合ったあと、スル タンはその青年に娘との結婚を許しました。
それから、40 日、40 晩の結婚式が行われ、2 人は結婚しました。
結婚したその晩、青 年は娘が自分のことを本当に好きかどうか試してみようと思いました。
金のお皿に白ブド ウ、そして銀のお皿には黒ブドウを入れ、妻に聞きました。
「スルタンの娘よ、さあ言うんだ、どちらのブドウが皿に合っている?」
突然の質問に、娘は皿をしばらく見た後、
「銀のお皿に黒のぶどうが、より合ってるように見えます」
と答えました。青年は期待していた答えが得られなかったために怒り狂って、
「つまりお前は私ではなく、私に仕えるアラブ人下僕が好きなんだろう!」
夫のこの言葉に驚いた娘は、どう説明しようか考えていると、さらに悪いことがおきまし た。
青年が手に棒を持って向かってきたのです。
どうにか逃げようと部屋の角に行こうとも青年はすぐに追いつき、彼女を捕まえ、殴り始めました。棒で 40 回彼女を殴って彼女 をまるで病人のようにしてしまいました。
次の日も、次の日も…40 日の間、夫から毎日 40 回殴られていました。
ここで一旦彼ら のことはおいておきましょう…
その近くに、貧しい女とその息子が住んでいました。
彼はある日、稼いだ金で布を買っ てくると母親のところに持っていき、
「お母さん、この布で僕に何着かシャツを作ってくれ。だけど、この布を悩みが一つもな い人間に裁たせてくれ、僕も何の心配もなくそのシャツを着られるようにね」
と言いました。女は考え始めました。さて、近所に悩みのない人はいただろうか。
そして すぐに一人思いついて、喜んで息子に駆け寄り、言いました。
「ついこの間、結婚したスルタンの娘だ。彼女の他にいるわけがない。今すぐ娘のところ にいってくるから、いいね?」
息子は、
「母さん、よく見つけたね。しかもスルタンの娘ときた。金持ちのところに嫁にいった。 うん、確かに彼女以外に悩みの無い人はいなさそうだ」
と言いました。女はさっそく支度 をし、わきに布を抱えて出発しました。
そして間もなく金持ちの男の屋敷に着きました。 使用人たちが扉をあけました。
その時は男が留守にしていたため、女を娘のそばにあげ ました。
夫から振るわれる暴力により体のあちこちにあざができ、骨のきしむ痛さで座る のもやっとな娘は、それがばれないように気を付けながら、
「こちらへどうぞ、おば様。なんの御用でしょう」
と言いました。女は、スルタンの娘が自分を笑顔で迎えてくれたのを見て、一息つきなが ら話し始めました。
「こんな朝早くからあなたにご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。私には息子 が一人おります。稼いだお金で布を買ってきてシャツを作れといったのですが、なんの悩 みもない人間に切らせ、自分も心配することなく着たい、というのです。そこで考えまし た。あなたの他にそんな人はいるはずがありません。そこであなたを尋ねたわけです。そ のお美しい手で息子のためにシャツを裁ってくだされば、とてもうれしいのですが…」
女の言葉を注意深く聞いていた娘は、しばらくじっと考えた後、
「おば様、この世に悩みのない人などいません。私だってそうです。あなたに私の悩みを 打ち明け始めたとしても信じてはくれないでしょう!そこで、今晩あなたをお客様としてもてなしますから、私の部屋のクローゼットに隠れてください。私に大きな悩みがあるこ とが理解していただけると思います!」
女はスルタンの娘に悩みがあることを知ると、何と言ってよいかわからなくなりました。
その晩、娘の悩みが何であるかを知ることに決めました。
娘はこのお客に食事を出した後、彼女を誰にも見られないように、部屋にある一番大き なクローゼットに隠しました。
夜になると、金持ち息子が帰ってきました。
「おまえは俺じゃなくて俺の使用人を好きだったなんてな!」
と手にもった棒で娘を殴り 始めました。40 回殴った後、部屋から出ていきました。
この哀れな娘の叫びとうめきに耐 えられずにクローゼットから出てきた女は、娘の体に薬をぬってやりました。朝まで彼女 の悩みを慰めました。
日が昇りきったころ、そのままの布を家に持ち帰りました。
母親を 心配していた息子が、
「どこにいたんだよ、母さん」
と聞くと、女は屋敷で見たことを一つ一つ説明しました。
息子もスルタンの娘の悩みを思 い、悲しみました。そして母親にこう言いました。
「母さん、僕はぼろシャツで外を歩いたって平気だ。だが、スルタンの娘を悩みから救っ てやらなくてはならない!今から屋敷にいって、旦那が彼女をまた殴りにきたときに“私 はあなたのこともアラブ人の使用人のことも好きじゃないわ。私が好きなのは緑の鳥のデ デです”と言うように言ってくれ。男は緑の鳥のデデを探しに旅に出るだろう。そした ら彼女は解放される。悲しむことはい…」
女は息子のこの言葉を聞くとすぐ出かけ、スルタンの娘のもとへと行きました。
そして 息子から聞いたことを彼女に教え、家に帰りました。
夜になり、男が娘のもとへとやってきました。
娘を殴ろうとしたその時、彼女はこう言 いました。
「私はあなたのこともアラブ人の使用人のことも好きじゃないわ。私が好きなのは緑の鳥 のデデ※1です」
娘のこの言葉に男は立ち止まりました。
緑の鳥のデデはどこのどいつだ?そいつを見つけ なければ。男は旅に出ました。
山を越え、谷を越え、6 か月進み続けました。そしてある草原にたどり着きました。
そこに大きな屋敷を見ました。そばに行き、使用人たちに話しかけました。
馬を小屋に括り付け、上にあがりました。目の前に扉が現れます。
その扉がひとりでに開いたかと思うと、 自分が大きな部屋にいることに気づきました。
そこは部屋というよりも、誰も足を踏み入 れたことがない、森の真ん中にある庭のようでした。木、低木、花々でおおわれていまし た。
そして、どの木の枝にも花にも、低木の下にもとても美しい緑の鳥がとまっていまし た。
部屋の一番奥にある木のうろには、長い白髭の老人が座っていて、鳥たちに何かを教 えていました。 男はあいさつをして歩み寄りました。緑の鳥のデデはあいさつを返しました。
そしてこ う言いました。
「さて、息子よ。何しにここへきたんだい?」
老人がこういうと、すべての鳥たちは鳴くのをやめ、この新しい客を見つめました。彼か らの返事を待ちました。男は説明しました。
「私はあるスルタンの娘と結婚しました。
結婚したその晩、金の皿に白いブドウを、銀の 皿に黒いブドウを置いてどちらが合っているか
と聞きました。すると銀の皿と黒いブドウ のほうがいいと言ったのです。
その時、私はわかりました。
彼女は私ではなく、私につか えるアラブ人の使用人のことが好きなのだと。
なので、それから毎日 40 回殴りはじめま した。40 日ほどそれが続いていました。
そして最後の日に私に“私はあなたのこともアラ ブ人の使用人のことも好きじゃないわ。
私が好きなのは緑の鳥のデデです”と言ったのです。
そういう訳で、私はあなたを探しに来たのです」
緑の鳥のデデは
「他にいうことはあるか?」 と聞くと、
「いいえ、これだけです」 と男は言いました。するとデデは、
「息子よ、おまえは間違っている。おまえの妻には何の罪もない。
おまえが考えを聞いて、 彼女が答えた。彼女の答えにはなんの悪意もない。
それにお前の妻はバラのように美しい 女性だろう。
彼女の価値を理解できてなかったのだな。
よし、おまえに私の身に起きたこ とを話してやろう。
そうしたら世界にどのような女性がいるのかわかるだろう。
…昔、学識もあり、しゃべりもよく、料理も裁縫もできる女と結婚した。
毎晩、私は近所 の誰それさんのところに行ってきます、といって出かけ、朝まで帰ってこない。
次の日も、 次の日もそうだ。これはいけない。
どこに行ったか知るために、ある晩妻のあとをついて 行った。
ついていくと、ある岩の前に出た。
彼女は私に気づいていなかった。突然、“砕け ろ、石よ、砕けろ!”と叫んだ。
すると岩が砕けて、彼女は中に入った。私は外に取り残 されてしまい、どうしようもなかったので
家に帰って寝た。妻は朝方家にもどってきた。
その晩、私は食べ物を入れた袋と剣を持って、また気づかれないように妻の後をつけ、
岩の前にやってきた。そして隅に隠れた。彼女が“砕けろ、岩よ、砕けろ!”と言うと、岩 は砕けた。私は彼女より前に中に入った。彼女も私のあとに中に入った。
見たところ、ほ のかな光がある。彼女に気づかれないように隅に隠れた。
妻は奥に進み、光のそばに近づ いた。すると彼女の隣に大男が現れたではないか。
この大男の片方の唇は地面にもう片方 は空にあった。
私の妻はそいつのそばに近寄りながら
“ああ、決して怒らないでください。 旦那を寝かせられなくて、遅れてしまいました”
と話し始めたのだ。そのあと 2 人は一緒 にいて、やがて疲れると寝始めた。
私は彼らのそばに行き、剣を一振りして、大男の頭を 切り落としてやった。
袋に入れて岩の入り口へ行き、“砕けろ、岩よ、砕けろ!”と言った。
しかし、岩は砕けなかった。
待つしかなかった。
朝方、妻が起き、隣にいた大男に頭がな いことに気づくと、恐怖におびえ、悲しんだ。
そして“あの旦那がいなければ、ここにと どまり、彼のために喪に服したのに”と言った。
頭の中が真っ白になった。しかし、身動 き一つしなかった。
彼女が近くに来たが、私に気づきはしなかった。
“砕けろ、岩よ、砕け ろ!”と彼女が言うと、岩が砕けた。
私は気づかれないように彼女の前に外に出て、先に 寝床にはいった。
彼女もあとから帰ってきて、隣に寝た。
朝、起きると彼女は私に、「私は 40 日、40 晩喪に服さないといけません。
私を待たないでください、それではいってきま す。」と言うと、私は怒った。
すぐに袋を手に取り、ひっくり返した。大男の頭が部屋の真 ん中にポトっと転がり落ちると、
妻は驚愕した。床に倒れた。大男の頭を手に取るや否や、 彼女はロバになってしまった。
片方の目から涙を、もう片方の目から血を流し始めた。ロバを小屋に連れて行って縄でつないだ。今もそこにいる。これらがわしの身に起きたこと だよ」
緑の鳥のデデが話を終えると、男は考え始めた。
デデの身に起きたことを知ると、自分 が間違っていたということがよくわかった。
そして、そこにいる緑の鳥たちが気になって いた男はデデに聞きました。
「デデ、この鳥たちをなぜここに集めたのですか」
緑の鳥のデデは言いました。
「息子よ、この鳥たちのすべては人間なのだよ。しかも、悩みのある人間だ。世界のどこかで酷い目に遭い、悩みや悲しみを抱えた人間がいると知らせが入ると、緑の鳥として彼 らをここに連れてきて、自分の子供とする。そして毎日、美しい言葉でその心の傷を、悲 しみを、取り除いてやっているんだよ。わかったかな?」
男は、言いました。
「わかりました、おじいさん。あなたはいい人なんですね!」
デデは言いました。
「おまえも良い人になるように頑張るんだよ」
男はデデのこの言葉を受けて、妻が自分をなぜここに導いたのかがわかりました。
さよ うなら、といってそこを離れようとしたとき、緑の鳥のデデは彼に一本の花を手渡して、
「この花を受け取りなさい。心に傷を負ったおまえの妻に渡しなさい。頭につけるがよい。 さすれば、悩みから、悲しみから解放されるだろう…」
と言いました。 男は花を受け取り、そこを離れました。
馬に乗り、出発しました。
山を越え、谷を越え、 昼夜を問わず、歩みを進め、家に着きました。
妻のそばへと行き、緑の鳥のデデがくれた 花を妻に渡しました。
頭につけるよう言いました。
娘は喜んで花を手に取り、頭につけました。
しかし、どうしたことでしょう。
花を手に 取るや否や、彼女は姿を消してしまったのです。
あたりを見回した男が見たもの、それは、 緑の鳥でした。
妻は緑の鳥となり、窓の外へ飛んでいくところでした。
彼女を逃がさない ように窓を閉めようと駆け出しました。
しかし、間に合いませんでした。鳥は飛んで行っ てしまいました。
妻に 40 日もの間、不当な暴力を振るってしまったことがいかに罪重きものだったか。
男は、彼女を手放してしまったことでそれをさらに痛感することとなりました。
しかし、 もう一度彼女を連れ戻すために緑の鳥の園に行くことが何の意味もなさないと悟り、
自分 の運命を受け入れました。間違いを認めました。
そして間違いを二度と起こさぬよう、心に刻んだのです。
※1 おじいさん、の意。
黄金の玉と姫 (Altın Toplu Sultan)
遠い昔のことです。
あるスルタンに 3 人の息子と 3 人の娘がおりました。
スルタンは死 ぬ間際、子供たちに遺言を残しました。
「アッラーの名のもとに、これからここを最初にたずねてきた者に、
その者がだれであ ろうと娘たちを順に嫁がせるように」
そしてある日、ぼろぼろに破れた服を身にまとった 90 歳の老人がやってきて、
アッラ ーの名のもとに、長女との結婚の許可を男兄弟たちに求めました。
長男と次男は、
「無理です、こんな男にあの子をやれるわけがないでしょう」
と言いましたが、末の王子は、
「これは父上の遺言だったはずです。ぼくはもう彼女を彼に連れて行きましたよ、彼ら はもう行ってしまいました」
と言いました。
そうして長女はその老人のもとに嫁いでしまったのです。
しばらくしてから、さらに年を取った老人がやってきて、アッラーの名のもとに次女に求婚しました。長男と次男はまた許可を出しませんでしたが、年少の王子は、
「これは父 上の遺言です」
といって次女もこの老人に嫁がせました。
それからまたしばらく時がたってから、さらに年を取った老人がやってきて、
アッラー の名のもとに三女に求婚しました。
年長の王子は
「無理です。やれません」
と言いました。 末の王子は、
「父上は死ぬ間際に遺言しましたよね。彼の意思を実現させなければなりません」
といい、年少の娘をその男に嫁がせました。
ある日、末の王子は夢の中で満月のように美しい娘を見ました。
そして一目で惹かれて しまいました。夢の中で、その娘の絵を手渡されました。
王子は目を覚ますと、“どうす ればあの娘を手に入れることができるだろう”と考え始めました。
そして決意をし、馬に 乗って旅に出ました。
遠くへ遠くへと足を進めました。山を越え、谷を越え、半年ほどの月日が流れました…
ある日、疲れに耐えられず、ある泉のそばで馬を木に結び、自分はその木の下に横になって
眠りにつきました。
丁度そのころ、その国の娘たちもその泉に水を汲みにやってきていました。
木の下に、まるで太陽のような顔をした青年が寝ているのを見て、スルタンの奥 さんに知らせに行きました。
その国は巨人の王の国でありました。スルタンの妻が泉にや ってきて、その王子を見ました。
その王子はスルタンの妻の本当の弟でした。なんとこの 王子の年長の姉と結婚したのがこの国の巨人の王だったのです…
さて、王女は弟を宮殿に 連れて行くよう命じました。王子は目を覚ますと、お姉さんが目の前にいるのを見て驚き ました。
王女は、 「あなた、ここに何の用があるの?」
と言いました。
王子は、夢で美しい娘を見て恋に落ち、彼女を探すために旅に出たのだと 説明しました。
懐からその娘の絵を出して見せました。すると王女は言いました。
「あなたの義兄さんは巨人の王なの。今晩帰ってくるから彼に聞いてみましょう。
さぁ来 なさい、とりあえずあなたを隠さないと。義兄さんの気に障るかもしれないから」
そして王女は王子を隠しました。
夜になり、巨人の王が宮殿に戻ってきました。まだ宮殿 の中に入るか入らないかという時に、
「人間のにおいがするぞ。さあ言うんだ、ここにだれがいる?」
といいました。王女は、
「もちろん私の親戚、知り合いがいるに決まっているでしょう。
彼らのうち誰かがきたのよ、きっと…もしそうだとしたらあなた、どうするつもり?」
「もし、長男が来ていたなら一飲みしてやっただろう。年少の王子であるなら、
わしの頭 の上にさえ場所はあるぞ」
「ほら、一番下の弟が来たのよ」
と言って彼を棚から出しました。王子はすぐに巨人の王の手にキスをし、
なぜやってきたのかを彼に説明しました。巨人の王は言いました。
「わしは 100 年もの間、この国で王座にいるのだ。これだけの土地があるが、
このような 娘は見たこともなければ聞いたこともない。おまえをわしの土地の外へと出してやる。そのあとはお前に干渉しまい。おまえにアッラーの助けがあるよう」
と言いました。そして王子に巨人の呪文を教えました。
この祈りの言葉をいえば、人は巨人になれるといいます。
そして王子を抱え、自分の土地の果てるところまで彼を運び、
「おまえの望みが叶えられるよう」 と言って、抱きしめました。
王子は旅を再開しました、そして進み続けました。
そして再び、疲労に耐えきれなくなり、泉のそばで馬から降りました。
馬を木に結び付けて横になり、眠りにつきました。
その国の娘たちが泉に水を汲みにやってきました。
木の下に、まるで月のような顔をした青年 が寝ているのを見て、スルタンの奥さんに知らせに行きました。
王女がやってきてその王子を見ました。
その王子はスルタンの奥さんの本当の兄弟でした。
そしてすぐに弟を宮殿 に連れて行くよう命じました。
王子は目を覚まして向かいに真ん中のお姉さんがいるのを みて喜びました。
王子は、その姉にも夢で美しい娘を見て恋に落ちたこと、そして彼女を 探すために旅に出たのだと説明しました。
王女は、 「今晩、義兄さんが帰ったら言ってみましょう。でももしかしたらあなたに悪いことをす るかもしれないから、とりあえずあなたを隠しましょう」
と言い、王子を棚に隠しました。
なんとその国は蟻の王の国だったのです。
真ん中の姉は この蟻の王のもとに嫁いだのでした。
夜になり、蟻の王が宮殿に戻ってきました。すると妻に、
「人の肉のにおいがするぞ。この宮殿にだれが来た?」
と言いました。王女はこう言いました。
「それは私の親戚か知り合いでしかないでしょう。彼らのうち誰かが来ていたらどうする っていうの?」
蟻の王は、
「年長の王子であれば、二つに裂いて食ってやる。次男が来れば、バラバラにして食って やる。一番下の王子であれば、わしの頭の上に場所をやろう」
と言いました。すると王女は、
「一番下の弟がきたのよ」
と言って、王子を棚から出しました。
王子は、蟻の王に夢で美しい娘を見て恋に落ちたこ と、そして彼女を探すために旅に出たのだと説明し、娘の絵を見せました。
蟻の王は、
「わしは 200 年もの間、これだけの土地を治めているが、こんなに美しい娘は見たことも なければ聞いたこともない」
と言いました。そして、王子に蟻の呪文を教えました。
これを唱えたものは蟻になるのだ といいます。
そして、王子を抱え、彼の国の国境まで運び、「さらばだ」と言って去って いきました。
王子は旅をつづけました。
そして再び疲労を感じ、ある泉のそばにやってきました。
馬 を木に結び付けて横になり、眠りにつきました。
この国の娘たちが泉に水を汲みにやって きました。
木の下に、日の光のように美しい青年が寝ているのを見て、スルタンの奥さんに知らせに行きました。王女がやってきてその王子を見ました。
その王子はスルタンの奥 さんの本当の弟でした。
そしてすぐに弟を宮殿に連れて行きました。
王子は目を覚まして 向かいに一番下のお姉さんがいるのをみて、喜びのせいでもはや何をすればいいかわから ないほどでした。
王女は、 「あなた、ここで何か探し物をしてるの?」 と聞きました。
王子は今まで起こったことを一つ一つ説明しました。
夢で見た娘に恋におち、旅に出たと説明しました。
王女は、
「夜になって、あなたの義兄さんが帰ってきたら聞いてみましょう。もしかしたら、彼は この子の居場所を知っているかもしれないわ」 と言いました。
そして、
「でももしかしたらあなたに悪いことをするかもしれないから、とりあえずあなたを隠し ましょう」
とも言って、王子を棚に隠しました。
この国はナイチンゲールの王の国であり、王子の3 番目の姉はこの王の妻となっていたのでした。 ナイチンゲールの王は毎晩宮殿に戻ると、窓の前にとまり、鳴くのだそうです。
また王 女には 40 着ものドレスがあるそうです。
その晩に王女が着ているドレスを彼が気に入れ ば、ナイチンゲールの姿から、本当に美しい青年へと姿を変え、妻の隣に行くのだという。
もし、王女のドレスが気に入らなければ、どこかへ飛んでいってしまい、6か月から一年 の間、姿を見せないのだそうです。
夜になり、ナイチンゲールの王がやってきました。そして窓の枠にとまり、鳴き始めま した。
そして、 「ここに人間がいるだろう。だれが来た?」と聞きました。
王女は言いました。
「もちろん私の親戚、知り合いの誰かがいるに決まっているでしょう。
彼らのうち誰かが きたのよ、きっと…もしそうだとしたらあなた、どうするつもり?」
王は言いました。
「一番上の王子だったら、私は声を無くしてしまう。生涯二度と鳴くことができなくなっ てしまうだろう。真ん中の王子が来ていたら、私はまた飛び去ろう。ここに戻ってくるなら 40 年後、もしくはもう二度と戻らないかだろう。年少の王子であれば、お前の今晩の ドレスがどんなものであろうと、すぐに走ってお前のそばに行くよ」
すると王女はすぐに棚から王子を出して、 「ほら、来たのは一番下の弟よ」 と言いました。
ナイチンゲールの王は妻のドレスを見ずに人間の姿になり、中へ入りまし た。
王子は義兄さんの手に何度もキスし、呪文を唱え、ナイチンゲールの姿になり、娘の庭 に飛んでいきました。
そのころ娘は奴隷たちと一緒に風にあたるために庭に出てきていま した。
そして、目の前にいる美しいナイチンゲールを目にしました…
その鳥を気に入って 捕まえようとしました。
ナイチンゲールは飛び回った後に、娘の腕の中に身を預けました。
娘はナイチンゲールを捕まえて金の鳥かごに入れ、寝台の端につるしました。
それから毎 晩、ナイチンゲールは鳴き続けました。
ある夜のこと、娘が寝た後、ナイチンゲールはかごから出て祈りの言葉を唱えて、依然 のような青年の姿へと戻り、娘の腕の中へと入りました。
そして髪や頭をくしゃくしゃっ と撫でて、娘が目を覚ます前に、また祈りの言葉を唱えてナイチンゲールの姿へと戻り、 かごに入りました。
翌朝、娘は目をさまし、髪の毛がぐしゃぐしゃになっているのをみて驚きました。
次の夜もナイチンゲールは同じいたずらをしました。
娘は朝になって目をさますと、また 髪の毛がくしゃくしゃになっているし、寝床も散らかっているし、さすがに変に思いまし た。
三日目の夜、娘は寝たふりをしました。ナイチンゲールは娘の腕の中に入りました。
娘 はとなりに満月のようなこの青年を見つけました。
なんと、娘もこの青年を夢で見ていて、 彼に恋に落ちており、彼との出会いを待っていたのです。王子の腕をとり、
「あなたは人かまぼろしですか?」 と言ました。王子は、
「人間でもなければまぼろしでもありません。君みたいなこの世界の子供です。
また僕はあるスルタンの息子でもあります。君を夢で見て、君を見つけるためにここにやってきた のです」
と言いました。娘は、
「私もあなたを夢で見ました。あなたをずっと待っていたのです」 と言いました。
そしてやっとお互いに抱き合い、話をしたり見つめあったりしながら朝を 迎えました。
朝になると娘は、
「私のお父さんはとても強情な人なのです。たくさん条件があって、それを全部乗り越え なければ、あなたを私と結婚させてくれないでしょう」
と言い、泣き始めました。王子は、
「君は心配しないで。アッラーがお許しくださるならば、私は彼の出す全ての課題を乗り 切って見せます」
といって娘を慰めました。
そしてすぐに娘の父親のところに行き、アッラーの名のもとに、 娘をくれるようにお願いしました。
父親は、
「それにはいくつか条件があるぞ」
と言いました。王子は、
「条件がなんであろうと受け入れます」
と言うと、娘の父親は、
「そうだな、ではまずどこそこにいるという巨人の王の庭にある泣くザクロと笑うマルメ ロを取ってくるのだ」
と言いました。
王子はすぐにナイチンゲールの呪文を唱え、ナイチンゲールになり、巨人の王の国へと 飛んで行きました。そしてそこで巨人の祈りの言葉を唱えて、巨人へと姿を変えました。
庭から泣くザクロと笑うマイメロをもぎ取り、娘の父親へと持っていきました…
すると父親は、
「今回はとりあえず合格だ。しかし、この次はどうかな。先ほどと同じ巨人の王の宮殿の 中に、ある鏡がある。人間がその鏡を見るとその中に先祖全員の姿が見えるらしい。それ を私に持ってくるのだ」
と言いました。
「いいでしょう、しかし私の外見にそっくりな青年を 40 人私のお供に下さい」
と言いました。 この 40 人のお連れとともに巨人の王の国の国境までたどり着きました。
王子は彼らに、
「君たちはここで待っていてくれ。僕はひとりで言って鏡を持ってくるよ」 と言いました。
ナイチンゲールの呪文を唱え、巨人の王の宮殿に飛んでいきました。
そこ で蟻の祈りを唱え、蟻になり、宮殿の中に入りました。
鏡の前では巨人たちが見張りをしていました。
目が開いていれば寝ていて、閉じていれば起きているだといいます。
王子も このことを知っていました。見ると、巨人たちの目は開いていました。
「よし、寝ているな」 と言い、そうっと鏡を取りました。鏡を懐に入れて、宮殿から出ました。
もう一度ナイチ ンゲールの呪文を唱え、40 人のお供の下に戻りました。
「用事は済んだ。さあ戻ろう」 と言いました。そして娘の父親のもとへと戻り始めました。
しかし、途中で目の前に海が 広がりました。
連れの者たちは、 「ここでちょっと体を洗ってから行きましょう」 と言いました。
王子は、鏡を無くすといけないから、と体を洗いたがりませんでした。
連 れの者たちは、王子が怖がっているとからかうと、王子は服を脱いで水に入り、
体を洗い始めました。
すると、人魚が彼に恋をし、彼を連れ去るかように海の中に消えていきまし た。
40 人の連れの者たちは、体を洗い終え、水から出ました。
しかし、待っても待てって も王子は戻ってきません。
「きっとおぼれたのだろう」と言い、その恐怖から一人残らず どこかへ逃げていきました。
その中の一人が王子の服のポケットから巨人の鏡を取りました…
そもそも彼らはみんな 王子に何から何までそっくりだったのですから、娘の父親の元へ行き、
「さあ、あなた様がほしがっていたものを持ってまいりました」
と言うと、父親は彼をすっかり王子だと思い込みました。それほどにそっくりだったので す。
そして彼を自分の娘と結婚させました。
結婚式の晩、部屋に戻ると娘は、
「王子様、鳥かごに入って少し鳴いてくださらない?そのあとに寝ましょう」
と言いました。男はびっくりしました。
「そんなことがありえるのかい?」 と言いました。すると娘は、
「この人は私の婚約者じゃないわ!」 と悲鳴をあげました。
男を取り捕まえ、尋問しました。王子がどうなったのかを問い詰め ました。
男は起こったことをすべて話しました。
娘は 40 個の黄金でできた玉を作らせ、海岸まで持っていきました。
「人魚さん」と呼 びかけ、言いました。
「私に王子様の指を見せて。黄金の玉を一つあげます」
人魚は指を見せました。
「人魚さん、あなたにもう一つ黄金の玉をあげます。王子様の両腕を見せて…」
と言いました。人魚は両腕を見せました。
「人魚さん。あなたにもう一つ黄金でできた玉をあげます。王子様の頭を私に見せて」
人 魚は王子の頭を見せました。
そうして、40 個目の黄金の玉の時に、娘は、
「あなたにもう一つ黄金の玉をあげます。王子様をあなたの手に乗せて見せてください」
といいました。人魚は水面に王子を出して見せました。
すると、王子はナイチンゲールの 祈りの言葉を唱え、ナイチンゲールになりました。人魚の手のひらから飛び、恋人のもと へと戻りました…。
40 日、40 の晩もの間、結婚式がつづけられ、ついに望みが叶えられたのです。
あるスルタンに 3 人の息子と 3 人の娘がおりました。
スルタンは死 ぬ間際、子供たちに遺言を残しました。
「アッラーの名のもとに、これからここを最初にたずねてきた者に、
その者がだれであ ろうと娘たちを順に嫁がせるように」
そしてある日、ぼろぼろに破れた服を身にまとった 90 歳の老人がやってきて、
アッラ ーの名のもとに、長女との結婚の許可を男兄弟たちに求めました。
長男と次男は、
「無理です、こんな男にあの子をやれるわけがないでしょう」
と言いましたが、末の王子は、
「これは父上の遺言だったはずです。ぼくはもう彼女を彼に連れて行きましたよ、彼ら はもう行ってしまいました」
と言いました。
そうして長女はその老人のもとに嫁いでしまったのです。
しばらくしてから、さらに年を取った老人がやってきて、アッラーの名のもとに次女に求婚しました。長男と次男はまた許可を出しませんでしたが、年少の王子は、
「これは父 上の遺言です」
といって次女もこの老人に嫁がせました。
それからまたしばらく時がたってから、さらに年を取った老人がやってきて、
アッラー の名のもとに三女に求婚しました。
年長の王子は
「無理です。やれません」
と言いました。 末の王子は、
「父上は死ぬ間際に遺言しましたよね。彼の意思を実現させなければなりません」
といい、年少の娘をその男に嫁がせました。
ある日、末の王子は夢の中で満月のように美しい娘を見ました。
そして一目で惹かれて しまいました。夢の中で、その娘の絵を手渡されました。
王子は目を覚ますと、“どうす ればあの娘を手に入れることができるだろう”と考え始めました。
そして決意をし、馬に 乗って旅に出ました。
遠くへ遠くへと足を進めました。山を越え、谷を越え、半年ほどの月日が流れました…
ある日、疲れに耐えられず、ある泉のそばで馬を木に結び、自分はその木の下に横になって
眠りにつきました。
丁度そのころ、その国の娘たちもその泉に水を汲みにやってきていました。
木の下に、まるで太陽のような顔をした青年が寝ているのを見て、スルタンの奥 さんに知らせに行きました。
その国は巨人の王の国でありました。スルタンの妻が泉にや ってきて、その王子を見ました。
その王子はスルタンの妻の本当の弟でした。なんとこの 王子の年長の姉と結婚したのがこの国の巨人の王だったのです…
さて、王女は弟を宮殿に 連れて行くよう命じました。王子は目を覚ますと、お姉さんが目の前にいるのを見て驚き ました。
王女は、 「あなた、ここに何の用があるの?」
と言いました。
王子は、夢で美しい娘を見て恋に落ち、彼女を探すために旅に出たのだと 説明しました。
懐からその娘の絵を出して見せました。すると王女は言いました。
「あなたの義兄さんは巨人の王なの。今晩帰ってくるから彼に聞いてみましょう。
さぁ来 なさい、とりあえずあなたを隠さないと。義兄さんの気に障るかもしれないから」
そして王女は王子を隠しました。
夜になり、巨人の王が宮殿に戻ってきました。まだ宮殿 の中に入るか入らないかという時に、
「人間のにおいがするぞ。さあ言うんだ、ここにだれがいる?」
といいました。王女は、
「もちろん私の親戚、知り合いがいるに決まっているでしょう。
彼らのうち誰かがきたのよ、きっと…もしそうだとしたらあなた、どうするつもり?」
「もし、長男が来ていたなら一飲みしてやっただろう。年少の王子であるなら、
わしの頭 の上にさえ場所はあるぞ」
「ほら、一番下の弟が来たのよ」
と言って彼を棚から出しました。王子はすぐに巨人の王の手にキスをし、
なぜやってきたのかを彼に説明しました。巨人の王は言いました。
「わしは 100 年もの間、この国で王座にいるのだ。これだけの土地があるが、
このような 娘は見たこともなければ聞いたこともない。おまえをわしの土地の外へと出してやる。そのあとはお前に干渉しまい。おまえにアッラーの助けがあるよう」
と言いました。そして王子に巨人の呪文を教えました。
この祈りの言葉をいえば、人は巨人になれるといいます。
そして王子を抱え、自分の土地の果てるところまで彼を運び、
「おまえの望みが叶えられるよう」 と言って、抱きしめました。
王子は旅を再開しました、そして進み続けました。
そして再び、疲労に耐えきれなくなり、泉のそばで馬から降りました。
馬を木に結び付けて横になり、眠りにつきました。
その国の娘たちが泉に水を汲みにやってきました。
木の下に、まるで月のような顔をした青年 が寝ているのを見て、スルタンの奥さんに知らせに行きました。
王女がやってきてその王子を見ました。
その王子はスルタンの奥さんの本当の兄弟でした。
そしてすぐに弟を宮殿 に連れて行くよう命じました。
王子は目を覚まして向かいに真ん中のお姉さんがいるのを みて喜びました。
王子は、その姉にも夢で美しい娘を見て恋に落ちたこと、そして彼女を 探すために旅に出たのだと説明しました。
王女は、 「今晩、義兄さんが帰ったら言ってみましょう。でももしかしたらあなたに悪いことをす るかもしれないから、とりあえずあなたを隠しましょう」
と言い、王子を棚に隠しました。
なんとその国は蟻の王の国だったのです。
真ん中の姉は この蟻の王のもとに嫁いだのでした。
夜になり、蟻の王が宮殿に戻ってきました。すると妻に、
「人の肉のにおいがするぞ。この宮殿にだれが来た?」
と言いました。王女はこう言いました。
「それは私の親戚か知り合いでしかないでしょう。彼らのうち誰かが来ていたらどうする っていうの?」
蟻の王は、
「年長の王子であれば、二つに裂いて食ってやる。次男が来れば、バラバラにして食って やる。一番下の王子であれば、わしの頭の上に場所をやろう」
と言いました。すると王女は、
「一番下の弟がきたのよ」
と言って、王子を棚から出しました。
王子は、蟻の王に夢で美しい娘を見て恋に落ちたこ と、そして彼女を探すために旅に出たのだと説明し、娘の絵を見せました。
蟻の王は、
「わしは 200 年もの間、これだけの土地を治めているが、こんなに美しい娘は見たことも なければ聞いたこともない」
と言いました。そして、王子に蟻の呪文を教えました。
これを唱えたものは蟻になるのだ といいます。
そして、王子を抱え、彼の国の国境まで運び、「さらばだ」と言って去って いきました。
王子は旅をつづけました。
そして再び疲労を感じ、ある泉のそばにやってきました。
馬 を木に結び付けて横になり、眠りにつきました。
この国の娘たちが泉に水を汲みにやって きました。
木の下に、日の光のように美しい青年が寝ているのを見て、スルタンの奥さんに知らせに行きました。王女がやってきてその王子を見ました。
その王子はスルタンの奥 さんの本当の弟でした。
そしてすぐに弟を宮殿に連れて行きました。
王子は目を覚まして 向かいに一番下のお姉さんがいるのをみて、喜びのせいでもはや何をすればいいかわから ないほどでした。
王女は、 「あなた、ここで何か探し物をしてるの?」 と聞きました。
王子は今まで起こったことを一つ一つ説明しました。
夢で見た娘に恋におち、旅に出たと説明しました。
王女は、
「夜になって、あなたの義兄さんが帰ってきたら聞いてみましょう。もしかしたら、彼は この子の居場所を知っているかもしれないわ」 と言いました。
そして、
「でももしかしたらあなたに悪いことをするかもしれないから、とりあえずあなたを隠し ましょう」
とも言って、王子を棚に隠しました。
この国はナイチンゲールの王の国であり、王子の3 番目の姉はこの王の妻となっていたのでした。 ナイチンゲールの王は毎晩宮殿に戻ると、窓の前にとまり、鳴くのだそうです。
また王 女には 40 着ものドレスがあるそうです。
その晩に王女が着ているドレスを彼が気に入れ ば、ナイチンゲールの姿から、本当に美しい青年へと姿を変え、妻の隣に行くのだという。
もし、王女のドレスが気に入らなければ、どこかへ飛んでいってしまい、6か月から一年 の間、姿を見せないのだそうです。
夜になり、ナイチンゲールの王がやってきました。そして窓の枠にとまり、鳴き始めま した。
そして、 「ここに人間がいるだろう。だれが来た?」と聞きました。
王女は言いました。
「もちろん私の親戚、知り合いの誰かがいるに決まっているでしょう。
彼らのうち誰かが きたのよ、きっと…もしそうだとしたらあなた、どうするつもり?」
王は言いました。
「一番上の王子だったら、私は声を無くしてしまう。生涯二度と鳴くことができなくなっ てしまうだろう。真ん中の王子が来ていたら、私はまた飛び去ろう。ここに戻ってくるなら 40 年後、もしくはもう二度と戻らないかだろう。年少の王子であれば、お前の今晩の ドレスがどんなものであろうと、すぐに走ってお前のそばに行くよ」
すると王女はすぐに棚から王子を出して、 「ほら、来たのは一番下の弟よ」 と言いました。
ナイチンゲールの王は妻のドレスを見ずに人間の姿になり、中へ入りまし た。
王子は義兄さんの手に何度もキスし、呪文を唱え、ナイチンゲールの姿になり、娘の庭 に飛んでいきました。
そのころ娘は奴隷たちと一緒に風にあたるために庭に出てきていま した。
そして、目の前にいる美しいナイチンゲールを目にしました…
その鳥を気に入って 捕まえようとしました。
ナイチンゲールは飛び回った後に、娘の腕の中に身を預けました。
娘はナイチンゲールを捕まえて金の鳥かごに入れ、寝台の端につるしました。
それから毎 晩、ナイチンゲールは鳴き続けました。
ある夜のこと、娘が寝た後、ナイチンゲールはかごから出て祈りの言葉を唱えて、依然 のような青年の姿へと戻り、娘の腕の中へと入りました。
そして髪や頭をくしゃくしゃっ と撫でて、娘が目を覚ます前に、また祈りの言葉を唱えてナイチンゲールの姿へと戻り、 かごに入りました。
翌朝、娘は目をさまし、髪の毛がぐしゃぐしゃになっているのをみて驚きました。
次の夜もナイチンゲールは同じいたずらをしました。
娘は朝になって目をさますと、また 髪の毛がくしゃくしゃになっているし、寝床も散らかっているし、さすがに変に思いまし た。
三日目の夜、娘は寝たふりをしました。ナイチンゲールは娘の腕の中に入りました。
娘 はとなりに満月のようなこの青年を見つけました。
なんと、娘もこの青年を夢で見ていて、 彼に恋に落ちており、彼との出会いを待っていたのです。王子の腕をとり、
「あなたは人かまぼろしですか?」 と言ました。王子は、
「人間でもなければまぼろしでもありません。君みたいなこの世界の子供です。
また僕はあるスルタンの息子でもあります。君を夢で見て、君を見つけるためにここにやってきた のです」
と言いました。娘は、
「私もあなたを夢で見ました。あなたをずっと待っていたのです」 と言いました。
そしてやっとお互いに抱き合い、話をしたり見つめあったりしながら朝を 迎えました。
朝になると娘は、
「私のお父さんはとても強情な人なのです。たくさん条件があって、それを全部乗り越え なければ、あなたを私と結婚させてくれないでしょう」
と言い、泣き始めました。王子は、
「君は心配しないで。アッラーがお許しくださるならば、私は彼の出す全ての課題を乗り 切って見せます」
といって娘を慰めました。
そしてすぐに娘の父親のところに行き、アッラーの名のもとに、 娘をくれるようにお願いしました。
父親は、
「それにはいくつか条件があるぞ」
と言いました。王子は、
「条件がなんであろうと受け入れます」
と言うと、娘の父親は、
「そうだな、ではまずどこそこにいるという巨人の王の庭にある泣くザクロと笑うマルメ ロを取ってくるのだ」
と言いました。
王子はすぐにナイチンゲールの呪文を唱え、ナイチンゲールになり、巨人の王の国へと 飛んで行きました。そしてそこで巨人の祈りの言葉を唱えて、巨人へと姿を変えました。
庭から泣くザクロと笑うマイメロをもぎ取り、娘の父親へと持っていきました…
すると父親は、
「今回はとりあえず合格だ。しかし、この次はどうかな。先ほどと同じ巨人の王の宮殿の 中に、ある鏡がある。人間がその鏡を見るとその中に先祖全員の姿が見えるらしい。それ を私に持ってくるのだ」
と言いました。
「いいでしょう、しかし私の外見にそっくりな青年を 40 人私のお供に下さい」
と言いました。 この 40 人のお連れとともに巨人の王の国の国境までたどり着きました。
王子は彼らに、
「君たちはここで待っていてくれ。僕はひとりで言って鏡を持ってくるよ」 と言いました。
ナイチンゲールの呪文を唱え、巨人の王の宮殿に飛んでいきました。
そこ で蟻の祈りを唱え、蟻になり、宮殿の中に入りました。
鏡の前では巨人たちが見張りをしていました。
目が開いていれば寝ていて、閉じていれば起きているだといいます。
王子も このことを知っていました。見ると、巨人たちの目は開いていました。
「よし、寝ているな」 と言い、そうっと鏡を取りました。鏡を懐に入れて、宮殿から出ました。
もう一度ナイチ ンゲールの呪文を唱え、40 人のお供の下に戻りました。
「用事は済んだ。さあ戻ろう」 と言いました。そして娘の父親のもとへと戻り始めました。
しかし、途中で目の前に海が 広がりました。
連れの者たちは、 「ここでちょっと体を洗ってから行きましょう」 と言いました。
王子は、鏡を無くすといけないから、と体を洗いたがりませんでした。
連 れの者たちは、王子が怖がっているとからかうと、王子は服を脱いで水に入り、
体を洗い始めました。
すると、人魚が彼に恋をし、彼を連れ去るかように海の中に消えていきまし た。
40 人の連れの者たちは、体を洗い終え、水から出ました。
しかし、待っても待てって も王子は戻ってきません。
「きっとおぼれたのだろう」と言い、その恐怖から一人残らず どこかへ逃げていきました。
その中の一人が王子の服のポケットから巨人の鏡を取りました…
そもそも彼らはみんな 王子に何から何までそっくりだったのですから、娘の父親の元へ行き、
「さあ、あなた様がほしがっていたものを持ってまいりました」
と言うと、父親は彼をすっかり王子だと思い込みました。それほどにそっくりだったので す。
そして彼を自分の娘と結婚させました。
結婚式の晩、部屋に戻ると娘は、
「王子様、鳥かごに入って少し鳴いてくださらない?そのあとに寝ましょう」
と言いました。男はびっくりしました。
「そんなことがありえるのかい?」 と言いました。すると娘は、
「この人は私の婚約者じゃないわ!」 と悲鳴をあげました。
男を取り捕まえ、尋問しました。王子がどうなったのかを問い詰め ました。
男は起こったことをすべて話しました。
娘は 40 個の黄金でできた玉を作らせ、海岸まで持っていきました。
「人魚さん」と呼 びかけ、言いました。
「私に王子様の指を見せて。黄金の玉を一つあげます」
人魚は指を見せました。
「人魚さん、あなたにもう一つ黄金の玉をあげます。王子様の両腕を見せて…」
と言いました。人魚は両腕を見せました。
「人魚さん。あなたにもう一つ黄金でできた玉をあげます。王子様の頭を私に見せて」
人 魚は王子の頭を見せました。
そうして、40 個目の黄金の玉の時に、娘は、
「あなたにもう一つ黄金の玉をあげます。王子様をあなたの手に乗せて見せてください」
といいました。人魚は水面に王子を出して見せました。
すると、王子はナイチンゲールの 祈りの言葉を唱え、ナイチンゲールになりました。人魚の手のひらから飛び、恋人のもと へと戻りました…。
40 日、40 の晩もの間、結婚式がつづけられ、ついに望みが叶えられたのです。
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